日本人のリスク耐性 豊島逸夫さんの記事から

豊島逸夫氏の金言

日経の中でいつも読んでいる記事の一つに、豊島さんの記事があります。
とてもわかりやすく端的に事象を伝えていらっしゃるので、参考にしています。
今回は、日本人の資産運用の際のリスク耐性について、そんな日本人に好適な投資手法も紹介されています。少し長いですが、面白いです。
以下引用

アベノミクスも日本人の民族的DNAまでは変えられない。

 年金勉強会で筆者が最も頻繁に受ける質問。それは、ドル安や日本株の予測ではない。「よそさんは、どうなんでしょうか」。貴金属会社の店頭職員たちの研修会で、「顧客から最も頻繁に受ける質問は?」と聞くと、圧倒的多数で「今日の店頭は売りが多いか、買いが多いか」。そこで、大手貴金属店にゆくと、「本日の買い件数、売り件数」なる数字がモニター画面の最初に表示されている。

 かくいう筆者も、スイス銀行外国為替貴金属部のチューリッヒでトレーダーをしていた頃、おのれの「めめしさ」に辟易(へきえき)とした体験がある。「チューリッヒの子鬼」と呼ばれる同僚たちと投機的売買成果を競う日々。帰宅の道すがら「あぁ、なんで、あんな高いところで買ってしまったのか」「もう少し辛抱すれば、安いところを拾えたのに」。あれこれ悔いるのだ。

 一方、同僚のスイス人たちを見れば、私同様に、勝つ日もあれば負ける日もある。負けた日は彼らとて悔しさでいっぱいだ。しかし、その後が違う。テニスで汗を流し、ビールをジョッキでひっかけ、気分をリセットしている。これ、言うは易し、行うは難し。

 そんな日々が続き、「どうも自分はトレーダーに向いていないのか」と思い始めた頃、ロンドンやフランクフルトで「敏腕トレーダー」とされる日本人たちと酒を酌み交わす席があった。

 そこで、思い切って、自分の本音を語ったところ、驚いたことに、多くの参加者が、実は自分と同じ悩みをかかえていたことを、酒の勢いで語り始めた。

 どうも、これは、日本人の民族的DNAのようである。

 それでも、プロのプライドがあるので、外国通信社とのインタビューでは、そんな悩みのカケラも見せない。見せたら、それこそ、負けである。

 そのような体験を経てきたので、日本人には日本人なりの投資法があると確信している。

 たとえば、現在進行中の日本株上げ相場。例によって海外勢に安いところを拾われ、多くの日本人投資家は上昇気流に乗りきれず、ほぞをかんでいる。「過熱感」を語るのは得意だが、調整局面で買えるか、といえば、すくんでしまう傾向から脱却できない。「ことを難しく語りたがるが、自分では何もできないぼっちゃん」タイプが多い。その人たちに「目をつぶって買え」と言っても無理な話だ。

 それでは、どうすればよいのか。

 結論はひとつ。「コツコツ積み立て」しかない、と筆者は言い切る。ニューヨーク・チューリッヒの第一線で3000回は相場を張り、通算成績は1600勝1400敗だった。8勝7敗でも勝ち越しを続けることが出来るのがプロ。相場に将来を占う水晶玉はない。

 それゆえ、自らの資産運用となると、地味なコツコツ型に徹している。証券会社出身の妻は、「偉そうなこと言ってるわりに、やっていることは地味だ。プロなんだから、裏ワザくらい知ってるんでしょう」とけしかける。しかし、個人的知り合いのプロたちも、自分の資産運用となると、地味なものだ。相場の怖さを身を持って体験してきたゆえに、上がっても下がっても粛々と日本株やドルを買い続ける。
そもそも日本で「草食投資」なる言葉を最初に使ったのは、筆者である。2009年の時点で、自著に「リーマンショックから1年。肉食系投資家に贈る草食系利殖術のススメ」と大きく記した。

 その後、コモンズ投信の渋沢(現)会長やセゾン投信の中野社長たちと「草食投資隊」セミナーを開催したこともある。

 今年はリスク耐性が弱い投資家にとっては、さらにマイナス金利という難問が降りかかってきた。「安全資産」であるはずの国債を持ちきると、利息を受け取るどころか、逆にカネを払わなければならないこともある。「量的緩和」のもと、金融当局が巨額の国債を買うことにより、民間の投資マネーをリスク資産に仕向ける作戦だ。まさに、投資家のリスク耐性が試されている。

 そこで、百戦錬磨のプロとして、日本人の個人投資家には「コツコツ投資」を強く勧めたい。日本株価指数先物市場におけるヘッジファンドの空中戦などは、高みの見物と決め込むのがよい。

 世界の長期マネーだって、運用難に窮しているのだ。債券市場では、いまやポルトガル10年債利回りが米国10年債利回りを下回るという珍現象が生じている。結局、米国株から欧州株そして日本株・新興国株と、リスク分散運用を迫られているのだ。そこで、欧米年金は、「コツコツ投資」を続けている。運用配分を決めたら、粛々と毎月執行するのみだ。

 プロでもリスクを持てあます時代ゆえ、個人投資家もあわてる必要はない。

 プロは決算期が近づくと、実績を残さねばならぬ宿命にあるので、ばたつき、市場のボラティリティー(変動率)をいたずらに高める。そんなとき、筆者は、決算期のない個人投資家が実にうらやましかった。「時間」という最強の武器が欲しかった。

 しかし、その武器の威力を、持っている人たちは感じていないように思える。